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 かんたんな超電導用語解説集

商工・学術論文にはJISの用語での記載が正式なものとなります。
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PQRSTUVWXYZ    

{ あ }

{ アシスト蒸着法   あしすとじょうちゃくほう }

成膜したい材料(蒸着材料)を蒸発あるいは昇華させて、基板等に蒸着させる過程で、反応を促進させる、あるいは目的の物質を選択成長させるために、イオンビームあるいはプラズマ等を補助的に用いる方法を総じてアシスト蒸着法という。(前者はイオンビームアシスト蒸着法、後者はプラズマアシスト蒸着法。)イットリウム系高温超電導線材プロセスにおいては、中間層の成膜において、イオンビームアシスト蒸着法が広く用いられている。⇒イオンビームアシスト蒸着法

{ アニール }

焼きなまし、焼鈍 一般に材料の組織の調整や加工履歴を除去すること。金属系超電導線、特にニオブチタン超電導線はニオブチタンが銅に埋め込まれた形で加工されて所定の線材が作られるが、加工により銅は加工硬化し、低温での電気抵抗が増加する。安定化のための銅であるので、電気抵抗を減らすために200~300℃でアニールを行う場合が多い。また、加工硬化によって加工しにくくなった超電導線材を加工しやすくするためにアニールを行う場合もある。 ⇒酸素アニール

{ アンダードープ(不足ドープ) }

⇒ドープ状態

{ 安定化   あんていか }

超電導線材の動きや磁場変動などにより、超電導状態が部分的に破れて抵抗が発生(常電導転移)すると抵抗上昇→温度上昇→抵抗上昇のループにより常電導状態が全体に波及することになる。これを防ぐ方法を安定化という。安定化には一般に2つの方法がある。ひとつは、超電導体に良導体を隣接させて常電導転移した部分の電流を迂回させ、常電導状態が機器全体に及ばないようにすること。もうひとつは、超電導体を分割した(多芯化)上、ねじりを加える(ツイスト)方法であり、超電導材料、目的等によって組み合わされる。一般に金属系超電導体は、臨界温度と運転温度の温度差を大きくとれないので、良導体との複合化と多芯ツイストは必須になっている。高温超電導体は比較的温度差が大きくとれるので、現時点の線材は良導体との複合化のみの構造である場合が多い。高温超電導体でも交流用途になると交流損失の問題が生じるので、良導体との複合化のみではなく、多芯化やツイストの必要性が生じる。

{ 安定化層   あんていかそう }

RE123系超電導線材において、超電導層の直上に成膜される常伝導金属層のこと。銀が用いられるとが多い。一般に実用超電導線材においては、超電導状態が部分的に不安定となって抵抗が発生した場合でも、流れている電流を迂回させて安定化を図るため、超電導体に良導体を接触させた構造を持っている場合が多い。

{ い }

{ イオンビームアシスト蒸着法   いおんびーむあしすとじょうちゃくほう }

薄膜の作製法の一種で、成長中の薄膜表面へイオンビームを照射しながら成膜を行う方法。IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法。表面状態の改質や、膜密度の向上など様々な用途に用いられるが、イットリウム系高温超電導線材プロセスにおいては、主に二軸配向構造をもつ酸化物中間層を得るために用いられる。二軸配向構造を得る方法としては現時点で最も高い線材特性が期待できる基板作製方法のひとつである。

{ イオンミリング }

Arなどのイオンの照射により薄膜表面の原子をはじき出すことにより、薄膜を削り取っていく加工法。SQUID素子の作製における微細加工にはイオンミリングが用いられている。

{ イットリウム系超電導体 }

YBa2Cu3Oy   ⇒YBCO    ⇒Y系

{ う }

{ 渦系   うずけい }

{ え }

{ 液相プロセス   えきそうぷろせす }

液相を介して超電導結晶を作製するプロセス。液相状態にある物質を原料としてを用いる、結晶あるいは薄膜の作製法の総称。LPE法やTFA-MOD法など。それに対して気相状態の原料を用いる場合を気相プロセス(あるいは気相法)と呼ぶ。

{ 液体ヘリウム   えきたいへりうむ }

ヘリウムは最も沸点の低い元素である。その液体である液体ヘリウムを冷却剤として用いることで、物質の温度を液体ヘリウムの沸点(1気圧下で4.2K)に維持できる。このため、液体ヘリウムは超電導体(特に金属超電導体)の冷却剤として用いられている。

{ エッチング加工    えっちんぐかこう }

超電導膜から不要な部分を削り取り、デバイスに必要な部分を残す工程である。液体の薬剤を用いるウエットエッチングとエッチングガスを用いるドライエッチングの2種類があるが、デバイス作製には加工精度の高いドライエッチングが一般に用いられている。高温超電導体膜にはArガスをぶつけて物理的に削り取るイオンミリングが用いられ、ニオブ膜にはフッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)が用いられている。

{ エピタキシー }

下地となる物質(基板)の結晶方位と一定の方位関係を保ったまま結晶あるいは薄膜が形成されること。あるいはその状態。

{ お }

{ オーバードープ (過剰ドープ) }

⇒ドープ状態

{ オプティマムドープ (最適ドープ) }

⇒ドープ状態

{ か }

{ 加圧焼成   かあつしょうせい }

CT-OP(ConTrolled Over-Pressure)は日本の電線メーカーの商標名で同義。 高温超電導材料として銀被覆Bi2223線材が商品化されたが、特に冷却のために加圧された液体窒素下では、空隙のある超電導体の中に窒素が浸透し、温度上昇時に気化して線材を損傷させる問題があった。それを防ぐため、熱処理時に加圧することによってBi2223超電導物質の密度をほぼ100%にまで向上させる手法。いわゆるHIP(熱間静水圧プレス)ではあるが、通常のHIPは不活性ガス中で行われるのに対して高温超電導物質は酸素の出入りが重要であるため、特殊なノウハウが必要であり、線材の量産に成功しているのは日本の一社だけである。なお、この手法は単に気化時の損傷を防ぐだけでなく、超電導線材の臨界電流密度向上、強度向上や長尺材の均質性の向上にも役立つ。

{ カイネティック・インダクタンス }

インダクタンスには、マグネティック・インダクタンスとカイネティック・インダクタンスがある。前者は磁界に関係する量で、通常インダクタンスというとこれを意味する。これ以外に後者のインダクタンスがあり、これは超電導体に起因する量である。たとえば、ジョセフソン接合に電流を流すと超電導体の位相差が生じ、ここにカイネティック・インダクタンスが生じる。厳密に言うと、磁束量子を保持した超電導ループに流れる電流は、このふたつのインダクタンスの和で決まる。したがって極端な場合、カイネティック・インダクタンスのみで保持される(したがって磁束がゼロの)磁束量子(フラクソイドという)もある。

{ 外部拡散法   がいぶかくさんほう }

Nb3Snの製造方法のひとつで、銅の中にNbを配置したものを加工して線材にした後、Snをめっきするなどの手法で外部から熱処理で拡散させ化合させる方法。

{ 界面改質バリア   かいめんかいしつばりあ }

Nbなどの金属超電導体を用いたジョセフソン接合では、バリア材料にAl-AlOxなどの非常に薄くて被覆性に優れた、しかし、超電導電極とは異なる材料を堆積することを前提としたバリアを用いることが多い。これをアーティフィシャルバリアと言う。しかし酸化物超電導体を電極に持つ接合では、両電極の表面の超電導性を十分に確保しながら、異種のバリア材料を挟み込むことが容易ではない。そこで、下部超電導層の表面をイオンを照射するなどの方法で薄く改質させ、バリアとして機能させる方法がある。これを界面改質バリアといい、ランプエッジ型接合にしばしば用いられる。

{ 化学気相蒸着法   かがくきそうじょうちゃくほう}

物質として一種あるいは異なる数種の気相原料ガスから化学反応を介して目的の物質を基板上に堆積させる方法。CVD(Chemical Vapor Deposition)法。物理気相蒸着(PVD; Physical Vapor Deposition)法と対比して用いられる。 ⇔物理気相蒸着

{ 仮焼   かしょう }

粉末(原料粉末)の予備的な熱処理。一般には、「本焼」前に行われる予備的な熱処理のことを指す。焼結体の作製における焼結前熱処理や、TFA-MOD法における超電導相形成熱処理(本焼)前に行う、前駆体形成のための熱処理のこと。⇔本焼

{ ガドリニウム }

{ 下部臨界磁場(Hc1) かぶりんかいじば  }

第二種超電導体に磁場を印加していったときに、完全反磁性が破れて磁場が侵入しはじめる磁場。熱力学的臨界磁場をHc、GLパラメーターをκとするとHc1=1/κHc。下部臨界磁場と上部臨界磁場の間の領域では、超電導体内に量子化磁束線(渦糸、vortex)が貫通した形で存在し、混合状態(あるいは渦糸状態(vortex state))になる。

{ 完全反磁性  かんぜんはんじせい }

⇒マイスナー効果

{ き }

{ 擬ギャップ現象   ぎぎゃっぷげんしょう }

高温超電導の不足ドープ領域で超電導転移温度よりかなり高い温度からスピンや、電荷の励起が抑えられていくようにみえる現象。スピン励起を見る磁気共鳴スペクトルや中性子非弾性散乱だけでなく、比熱、光電子分光、トンネル分光、電気抵抗、光学スペクトルなどで観測される。

{ 基板   きばん }

①超電導デバイスをその上に作製する板状の材料。エピ成長の必要のないニオブSFQ回路では、入手の容易さと表面平坦性の高さからシリコンウエハが一般に用いられる。超電導検出器など基板を通した高い熱伝導が必要な応用では、サファイアやクォーツが用いられている。エピ成長が必須の高温超電導デバイスでは、格子整合、熱膨張率、入手しやすさなどを考慮してMgOなどが使用されている。
②RE123系超電導線材作製プロセスにおいて用いられる厚さ数十から100ミクロン程度のテープ状金属基板のこと。線材としての強度のほとんどを担うため高強度が求められ、比較的選択の自由度が大きいIBAD系の基板プロセスでは、ハステロイ、インコネルなどのNi(ニッケル)系やステンレスなどのFe系の高強度合金が用いられる。一方、Ni、Ag、Cuなど純金属が用いられる配向金属基板をベースにしたプロセスでは、Ni-Wなど合金化による高強度化の努力が為されている。

{ キャップ層 }

RE123系超電導線材において、超電導層の直下にあたる中間層のことを指す。超電導層との反応性や格子定数の整合性などを調整する役割を担う層。また超電導層の上に成膜される銀などの安定化層をキャップ層と呼ぶ場合もある。

{ 急冷凝固法   きゅうれいぎょうこほう }

Nb3AlはNb3Snに比べて臨界磁場が高く、機械的ひずみに強いが、Nb3Snのようにブロンズ法が使えない。また、化学量論的組成(3:1)のNb3Alは2000℃程度の高温でしか存在しないうえ、長時間の熱処理では結晶が肥大化する。そこで高温で短時間熱処理した後、急冷して3:1の相を凝固させる手法。

{ 近接効果(超電導近接効果)  きんせつこうか  }

超電導体と常電導金属が接触させた系においては、超電導体から常電導金属への超電導電子のしみ出しが起こる。それによって常電導金属が超電導性を示す現象を(超電導)近接効果(proximity effect) という。

{ 金属系超電導   きんぞくけいちょうでんどう }

狭義では金属元素単体の超電導物質。広義では、高温超電導物質の一種である酸化物系超電導物質に対して、従来からある金属超電導物質(Nb、Pbなど)、合金系超電導物質(NbTiなど)及び金属間化合物超電導物質(Nb3Snなど)をあわせたものをいう。これらは、低温超電導と呼ばれることもあるが、2001年に青山学院大学の秋光氏によって発見された臨界温度39KのMgB2(金属間化合物)も含むため、低温超電導物質とは定義が異なる。

{ く }

{ クーパー対  くーぱーつい  }

BCS理論では電子-格子相互作用を介して電子同士がフォノンを交換することによって電子間に引力が生じて電子対を形成すると考えている。この電子対は理論の提唱者の一人である、クーパーの名前をとって「クーパー対」とよばれてる。常電導体の場合は(独立した)自由電子が電流の担い手となるが、超電導体ではこのクーパー対が電流の担い手となっている。

{ クライオスタット  }

超電導センサやコイルなどの超電導機器を動作させるために冷却し、必要な信号線や電源線を室温環境に取り出せるようなした断熱容器。用途により、ステンレス、アルミ、FRP、ガラスなどの材料で構成され、一般には真空断熱を用いることが多い。輻射熱を断熱するために、金属蒸着膜やスーパーインシュレーションを加えたものもある。液体窒素や液体ヘリウムなどの冷媒の他、冷凍機を用いたクライオスタットもある。

{ け }

{ 限流器  げんりゅうき }

⇒FCL

{ こ }

{ 高温超電導/高温超電導体   こうおんちょうでんどう/たい }

1986年にIBMチューリヒ研究所のBednortzとMullerが最初に発見した銅酸化物系超電導物質を発端に、従来のBCS理論では上限とされる臨界温度約25Kを超える超電導物質をBCS理論より高温という意味で高温超電導物質と呼ぶ。これは、国際標準(International Standard)でかつJIS規格でも定義されてはいるが、液体窒素を使って超電導状態を実現できるという意味で、77K以上の臨界温度をもつ超電導体を高温超電導物質と呼ぶ場合もある。

{ 交流損失   こうりゅうそんしつ }

交流電流あるいは磁場に対して生じるエネルギー損失のこと。超電導体そのものが損失の原因となるヒステリシス損失のほか、線材構造に含まれる導体(金属)部分で発生する渦電流損失、線材の構造に由来する結合損失などがある。超電導体は直流電流に対しては、原理的に損失ゼロ(抵抗ゼロ)の状態を実現するが、交流電流に関してはエネルギーの損失(=抵抗)が生じる。

{ コーテッドコンダクター }

イットリウム系高温超電導線材の別名。テープ状金属などの構造体の上に"コート"されるその形態からこう呼ばれる。coated conductor。CCと略される。

{ コヒーレンス長 }

一般には、コヒーレンスというのは波の干渉し易さを示す度合いのことを指し、二つの波が起こりはじめる距離をコヒーレンス長と呼ぶ。超電導においては、電子の対(クーパー対)の空間的な広がりを表す長さの尺度のこと。ギンツブルグーランダウ理論(GL理論)においては、コヒーレンス長はオーダーパラメーターが空間変化する長さに対応する。  ⇒磁場侵入長

{ 混合状態   mixed state, vortex state }

第二種超電導体において、下部臨界磁場Hc1以上の磁場がかかることによって内部に磁束が侵入した状態。侵入した磁束によって部分的に超電導状態が破壊され、全体としては超電導状態を保ちながら、常電導状態が混在している。完全反磁性状態は破れているが、完全導電性(ゼロ抵抗状態)は保たれている。また、波動関数の一価性の要請から侵入した磁束は2.07x10^-15Wbを単位に量子化されている。

{ さ }

{ 酸素アニール  さんそあにーる }

銅酸化物系高温超電導体には酸素不定比性があり、酸素量によってキャリア数が変化し、超電導特性も変化する。(⇒ドープ状態)。そのため、材料合成の最終工程における熱処理(アニール)によって最適酸素量に調整することが重要である。酸素量はアニール時の温度と酸素分圧に依存し、低温・高酸素分圧になるほど酸素量が増加する。RE123系線材においては、酸素量が多い程優れた臨界電流特性が得られることが知られており、アニール処理は、通常、酸素雰囲気中で200-450℃の低温で行なわれる。

{ 酸素欠損   さんそけっそん }

Y123系超電導体(Yの他、La~Ydの希土類元素超電導体も含む)の結晶構造は酸素欠損型層状ペロプスカイト構造と呼ばれ、Cu-Oチェーンサイトの酸素が欠損しやすいことが知られている。化学式で記述するとYBa2CuO7-δとなり、最大7個の酸素から最小6個の酸素まで(0≦δ≦1)連続的に酸素欠損が生じ欠損量をδで表す。

{ し }

{ ジェリーロール法 }

ジェリーロールは、ヨーロッパのお菓子でカステラにゼリーを塗って巻いたもの。いわゆるスイスロールの一種でクリームの部分がゼリー(or ジャム)になったもの。Nb3SnやNb3Alの製造方法のひとつとして開発されたもので、ニオブとアルミやスズのシートを巻いて作る。
[右図はお菓子のジェリーロール]

{ 磁気光学効果   じきこうがくこうか }

磁場と光との交互作用によって生じる効果で、ファラデー効果と呼ばれている。磁場中では、光の偏光面が回転するので、回転角の大きな物質を用いれば、磁束の存在を光の偏光領域として映像化することが可能となり、磁束観察に用いることができる。

{ 磁気光学磁束観察   じきこうがくじそくかんさつ }

磁気光学効果(ファラデー効果)を用いた磁束観察手法。試料の上にガーネット膜あるいは、Euカルコゲナイド膜を密着させて、試料表面の磁束を映像化する。高磁場までリアルタイムにマクロな磁束の挙動を観察できる。

{ 磁気抵抗   じきていこう }

磁場によって電気抵抗が変化する現象。一般に磁場が高くなると抵抗が増大する。銅やアルミが超電導線材の安定化材として用いられているが、銅に比べてアルミは磁気抵抗効果が少ない。アルミの強度補足ため、銅や銅合金との複合化が用いられるが、銅とアルミの間のホール効果により複合則で推定される値より非常に大きくなることが知られている。

{ 次世代線材   じせだいせんざい }

ビスマス線材を第一世代として、イットリウム系等のRE123超電導体を用いた線材を次世代という。ビスマス系超電導体は磁場中において特性の低下が大きいのに対し、RE123系超電導体は磁場中でも良好な臨界電流密度特性を有することから、磁場中応用に期待され、また銀シースを用いないことから低コストも期待されている。

{ 磁束クリープ }

磁束がピン止め点に捕まった状態は準安定状態であり、真の平衡状態に向けての緩和、すなわち時間がたつと対数的な減衰が起こる。この時の、磁束線の運動を磁束クリープ(フラックスクリープ)といい、熱揺動に起因する。バルク超電導体に捕捉された磁場も、磁場捕捉直後は急激な減衰を示しその後安定する。

{ 磁束トラップ }

超電導体の中の常伝導の部分あるいは、比較的超電導性の弱い部分に磁束が閉じ込められてしまうことをいう。この磁束は超電導体にトラップされた部分がピン止めされて動けないため、この部分に定常的に磁束が存在し続けるので、あたかも永久磁石がそこにあるかのように見える。この磁束がSFQ回路に影響を与えると誤動作の原因になる。

{ 磁束融解転移   じそくゆうかいてんい }

高温超電導体の場合には磁束は様々な相を示す。 磁束の示す相を物質の3態に例えた場合に、個体相から液体相への1次相転移を磁束融解転移と呼ぶ。氷が融けて水に変わる場合と同様に、温度に対するヒステリシスがある。磁束融解転移温度では電気抵抗率が急激に変化することが観測される。

{ 磁束量子   じそくりょうし }

超電導体又はその環を貫く磁束の最小磁束量。Φ0=h/2e=2.07×10-15(Wb)。ここで、h:プランクの定数、e:電子の電荷。

{ 磁場侵入長   じばしんにゅうちょう }

磁場中に置かれた超電導体は、向きが反対で同じ大きさの磁化を発生させ、外部磁場をほぼ完全に排除する性質をもち、これをマイスナー効果(完全反磁性)と呼ぶ。しかし、厳密には最表面のわずかな深さまでは磁場の侵入した領域が存在し、その深さのことを磁場侵入長と呼ぶ。通常数十ナノメートル~1ミクロンの程度。第二種超電導体の混合状態において、内部に侵入した磁束線の大きさ(半径)に相当する。

{ シフトレジスタ  }

電子計算機の構成要素の一つで数値や計算指令を表す一連の2進数字の記憶装置をレジスタという。フリップフロップを並べたレジスターに適当な論理回路を付加 して、桁送り信号(シフトパルス)がくるごとに記憶内容が右または左に1つずつ移動するようにしたものをシフトレジスタという。SFQ回路では、SFQ(単一磁束量子)が回路内に在るか無いかを2進数字の「1」「0」に対応させ、これを左右にシフトさせることでシフトレジスタを実現している。

{ 常電導状態   じょうでんどうじょうたい }

超電導状態に対して、電気抵抗がゼロでない通常の電気伝導の状態をいう。超電導体に臨界磁場より大きな磁場をかけたり、転移温度より高い温度にすると、電気抵抗はゼロでなくなり、常電導状態が出現する。

{ 上部臨界磁場(Hc) じょうぶりんかいじば  }

第二種超電導体に磁場を印加していったときに、超電導状態が破れて常電導状態に転移する磁場。Hc、GLパラメーターをκとするとHc2Hc

{ ジョセフソン弱結合状態   じょせふそんじゃくけつごうじょう  }

粒界を通過する臨界電流密度が粒内に比べて著しく低下している状態を示す。我々の研究によれば理想的な界面を有する接合においても,粒界傾角が増加すると弱結合状態になることが明らかになってきた。

{ ジョセフソン接合   じょせふそんせつごう }

二つの超電導体を弱く結合した素子。二つの弱く結合した超電導体間の波動関数位相差により電圧降下なしに電流が流れる直流ジョセフソン効果、発生した電圧に比例した高周波発振が起こる交流ジョセフソン効果が起こる。超電導デバイスにおいて能動素子として使用される。二つの超電導体の結合方法によって、トンネル接合、マイクロブリッジなどいくつかのタイプがある。

{ 人工粒界   じんこうりゅうかい }

超電導材料を用いて粒界ジョセフソン接合を作製するため、あるいは、超電導材料の基礎特性評価において粒界を介した時の臨界電流特性を評価するために人工的に作った粒界。一般的には任意の粒界角で接合させたSTOやMgO等の基板上に超電導膜をエピタキシャル成長させてつくる  ⇒バイクリスタル接合

{ す }

{ ステップエッジ接合   すてっぷえっじせつごう  }

Y系高温超電導体を一層堆積するプロセスにおいて、膜中にジョセフソン接合を形成する手法で作製した粒界ジョセフソン接合の一種である。あらかじめ基板内に段差を設け、超電導薄膜を堆積すると、そのエッジ部に粒界が形成され、ジョセフソン接合として機能する。従来はエッジの上部と下部の2カ所に接合が形成されたが、近年では下部のエッジをラウンドさせて、上部1カ所のみに接合を形成するなど、製作技術の向上が見られ、高温超電導SQUIDなどに用いられている。

{ スパッタリング   すぱったりんぐ  }

超電導膜の成膜方法の一つ。Arプラズマをターゲットと呼ばれる被成膜材量の板にぶつけ、はじき出された原子を基板に到達させることにより基板上に成膜する。高温超電導体のスパッタリングは、酸素雰囲気中で行い超電導体の構成元素とともに酸素を膜中に取り込む。

{ スピンギャップ  }

高温超電導の不足ドープ領域で超電導転移温度よりかなり高い温度からスピン揺らぎが減少している現象。この概念は初め、磁気共鳴スペクトルの縦緩和時間(T1)の温度依存性異常を説明するために提唱され、中性子非弾性散乱でもスピン励起が抑えられていることが観測された。

{ スピン・電荷のストライプ縞状秩序    すぴんでんかのストライプしまじょうちつじょ  }

高温超電導体で、電荷が空間的に不均一に偏る現象である。電荷が縞状に偏り、縞には半分だけ正孔が存在し、縞方向には正孔は自由に動けるが、縞間の運動は阻害される。電荷の縞を挟むスピンの縞には電荷は存在しない。La1.6-xN0.4SrxCuO4 (x=1/8)の中性子回折で観測された。

{ せ }

{ 積層型(ジョセフソン)接合    せきそうがたせつごう  }

ジョセフソン接合のうち、下部電極上にバリアを、その上に上部電極を配した縦型のジョセフソン接合を意味する。Nb/Al-AlOx/Nbはその代表例である。多層の堆積を基本とするプロセスで作製されるため、超電導性に異方性がなくしかも多層積層プロセスを得意とする金属超電導体では、接合特性の面内分布にもすぐれ、広く応用されている。一方、c軸方向に成長しやすく、しかもc軸方向のコヒーレンス長が短いY系超電導体では、現在のところ作製は困難で、擬似的な積層型接合としてランプエッジ型接合が開発された。

{ 前駆物質(前駆体、先駆物質)   ぜんくぶっしつ(ぜんくたい せんくぶっしつ }

着目する生成物の前の段階にある一連の物質を指すが、一般には1つ前の段階の物質をさす。

{ そ }

{ 走査型トンネル顕微鏡(STM)   そうさがたとんねるけんびきょう }

トンネル効果を用いた顕微鏡。極細の探針を導電性の物質の表面に近づけた時に流れるトンネル電流から、表面の原子像や状態密度マップを得ることが出来る。一定電流(又は電圧)のもとで探針を走査して測定するSTM(scanning tunnel microscopy)測定の他、一点一点において電流-電圧特性を測定する走査型トンネル分光(scanning tunnel spectroscopy, STS)測定がある。超電導材料においては、超電導ギャップや磁束格子像の観測等に用いられている。なお、STMを発明したビーニヒ(G. Binnig)とローラー(H. Rohrer)は、その功績により1986年にノーベル物理学賞を受賞した。(G. Binning et al., Phys. Rev. Lett., 27, 922 (1982))

{ 双晶境界   そうしょうきょうかい }

RE123 系の単結晶およびそれに類する結晶配向性の高い試料では,結晶成長温度よりも低い温度に正方晶と斜方晶の構造相転移が存在するために,冷却過程での応力緩 和により双晶が生じる。a軸とb軸が入れ替わっている界面を双晶境界と呼び,磁束のピン止めセンターの1つとなっている。

{ ゾーンメルト法、浮融帯溶融法(FZ法) ふゆうたいようゆうほう }

ゾーンメルト法は、試料の一部を加熱・溶融し、溶融部分を徐々に移動させることによって後方に結晶を育成していく方法。もともと固相/液相の溶質濃度の違いなどを利用して物質の精製などに用いられた方法であるが、種結晶を用いることで比較的大きな単結晶を作製することもできる。試料および溶融部の移動方向を垂直方向にとり、試料容器を用いることなく表面張力だけで溶融部を保持する方法を浮遊帯溶融(Floating Zone; FZ)法と呼び、不純物の混入が少ないという利点がある。高温超電導体などの分解溶融型の化合物(融点より低い温度に分解点をもつ化合物)の合成(あるいは単結晶の育成)に用いる場合には、さらに溶融部の組成のみを目的組成からずらして制御する必要があり、とくにこれを溶媒移動浮遊帯溶融(Traveling Solvent Floating Zone; TSFZ)法と呼ぶ。

{ た }

{ 帯磁率   たいじりつ }

帯磁率=磁化率。磁化Mと磁場Hとの関係M=cHを表わすcをいう。常磁性体では10-3-10-6程度の正の値、反磁性体では10-6程度の負の値、超電導体の完全反磁性では-1/4πの値である。

{ 第一種超電導体   だいいっしゅちょうでんどうたい }

超電導体に外部から磁場を与えた場合、磁場の強さが臨界磁場Hc以下でマイスナー効果を示し、磁束が内部に侵入しない超電導体。臨界磁場に磁場が達すると磁束が侵入し,常伝導状態へ1次転移する。Nb, V以外の単体の超電導体はほとんどすべてこれに属する.

{ 第二種超電導体   だいにしゅちょうでんどうたい  }

下部臨界磁場Hc1以下の磁場領域で、マイスナー状態となり、Hc1を超え、上部臨界磁場Hc2までの磁場領域では磁束が侵入し混合状態となる超電導体。実用超電導体において第二種超電導体は上部臨界磁場Hc2が 非常に大きく、高磁場まで超電導と磁場が共存できる(超電導状態を保つ)。ただし、電流の作用であるローレンツ力が働いて量子化磁束の運動が起こると、電場が生じて電気抵抗が生じる。従って電気抵抗の発生を抑えるため、量子化磁束の運動を止めるピン止めの作用が必要である。合金や酸化物系超電導体は第2種 超電導体である。

{ 第二相(常電導相)   だいにそう  }

超電導材料の臨界電流向上のためには、ピン止め中心を導入することが有効であり、その手法として、超電導材料に常電導物質を添加することが広く行われている。このとき、母相である超電導相に対して、導入された常電導相を便宜的に第二相と呼ぶことがある。例えば、Y123系バルク体においてはY211相(Y2BaCuO5)が有効なピン止め中心であるということが知られており、Y123相(YBa2Cu3O7-δ)が母相で、Y211相を第2相と呼ぶ。高い臨界電流密度を得るためには、いかに第二相を微細にかつ均一に分散させるかが重要であり、そのための、材料の結晶成長条件および組成の最適化が必須である。

{ 種結晶   たねけっしょう  }

単結晶を育成するときに、育成する結晶の方位を定めるために用いられる。引き上げ単結晶育成法にはバルク単結晶が用いられる。123系超電導体のLPE成膜においても、MgO単結晶基板等の上に種結晶膜として123結晶を気相法により成膜している。

{ 短尺、長尺   たんじゃく、ちょうじゃく  }

高温超電導線材の製造基礎技術開発において、一般に1m以上を長尺、30cm未満を短尺と称す。 あいまいな表現ではあるが、線材開発の分野でよく用いられる。おおよそ1cm~1m程度以下を短尺、それ以上を長尺と呼ぶことが多いが、定義は明確ではなく、また開発状況の進展とともに変化する可能性もある。そこに含まれるニュアンスとしては、それが商業化のために要求される数km以上の連続作製プロセスに直接繋がるような試料であるか否か(つまり全ての開発要素がその試料のなかに含まれているかどうか)で長尺試料か短尺試料かを使い分けることが多い。)

{ ち }

{ 中間層   ちゅうかんそう  }

 基板と超電導層の間にあり、線材作製プロセスにおける加熱処理における基板と超電導層との反応を防ぐ役割を持つ。また中間層配向型線材においてはプロセス制御により中間層を配向させる。かつ中間層の結晶配向性、平坦性などはその上にのる超電導層の結晶配向、超電導特性に大きく影響を与える。

{ 中性子散乱   ちゅうせいしさんらん  }

中性子を物質に入射した時、物質を構成する原子核との相互作用や磁気を担う電子との磁気的相互作用で散乱される(方向を変える)現象。中性子はスピンをもつため、局所磁場から相互作用を受け散乱をうける。例えば、混合状態にある超電導体に中性子を入射すると、磁束格子による散乱を受けるため、磁束格子の構造解析を行うことが可能である。また、物質内のミクロな磁石であるスピンの秩序状態などを調べる上でも中性子散乱は有効な手段である。

{ 超電導AD変換器   ちょうでんどうADへんかんき  }

超電導デバイスであるジョセフソン接合をADコンバータの比較器(アナログ入力信号を基準信号と比較してデジタル化する素子)として用いた素子。超電導現象特有の量子化された磁束を基準信号として用いるため、きわめて精度が高い。またジョセフソン接合が高速で動作するため、超高速のAD変換が可能である。

{ 超電導ギャップ  }

超電導状態と常電導状態の自由エネルギー差(凝集エネルギー)に相当し、このエネルギー分超電導下では安定化する。エネルギー差は温度上昇とともに減少し、超電導転移温度で0(ゼロ)になる。

{ 超電導ケーブル  }

電力の輸送を目的としたケーブルで、超電導線を用いたもの。テープ状の超電導線をスパイラル状に巻き、電気絶縁層が設けられる。過冷却(77K以下)の液体窒素で冷却するために、窒素の流路と、77K以下に維持するための熱絶縁を構成する容器からなる。電気絶縁は常温とする方が製造は簡単であるが、超電導特有の高電流密度ゆえ、発生する電磁波により交流損失が大きくなる。一方、電気絶縁層の外側にも同じ電流を流ことが可能な超電導線を巻き、誘導電流を流す構造にすることにより完全な電磁気シールドを形成すると、電磁波が周囲に漏れず、交流損失が低減することから、最近では殆どの超電導ケーブルで採用されている。前者は絶縁が常温で、後者は絶縁が低温になるので、前者を温間絶縁(Warm Dielectric)、後者を冷間絶縁(Cold Dielectric)と呼ぶ。電力は通常3相で送電されるが、それぞれ1相分ずつ熱絶縁容器にはいったものと、3相まとめてひとつの絶縁容器にはいったものの2種類のケーブルがある。ケーブルの両端には常温に電力を取り出すための端末が必要になる。

{ 超電導相関長   ちょうでんどうそうかんちょう }

⇒コヒーレンス長、ξ

{ 超電導体   ちょうでんどうたい }

ある条件の下で電気抵抗がゼロとなる物質。ある条件とは臨界温度、臨界磁場、臨界電流密度を超えない範囲を指す。超電導体は,完全導電性、完全反磁性(マイ スナー効果)、磁束の量子化、ジョセフソン効果などの他に類を見ない特性を示すため,省エネルギー技術など様々な応用が期待されている。また,高温超電導 は25 K(ケルビンは絶対温度の単位で、0K=-273℃)以上に臨界温度をもつ物質で,主に銅酸化物系材料である。

{ 超電導対破壊   ちょうでんどうついはかい }

超電導電子対(クーパー対)が外場(電流、温度、磁場、不純物添加他)によって壊されて、常伝導の2つの電子になること。

{ 超電導変圧器  ちょうでんどうへんあつき }

電力を効率的に輸送するため電圧を変換する装置が変圧器であり、従来の銅線の代わりに超電導線を用いたものが超電導変圧器である。使用する超電導線の種類によってBi系とY系に分かれ、Bi系が先行して開発されたが、交流損失や臨界電流の問題等からY系超電導変圧器の開発が現在主流となっている。
Y系超電導変圧器は、従来の油入変圧器に比べ、重量は1/2、設置面積は2/3とコンパクトであり、交流損失は1/3以下と大幅なロス低減が可能となるとともに、油を使用しないため不燃性や保守性でメリットを有する。さらに、既存変圧器にはない限流機能の装備も可能なことから、付加価値が高いことも特長の1つと言える。

{ 超電導量子干渉素子   ちょうでんどうりょうしかんしょうそし }

⇒SQUID

{ て }

{ Δω(デルタオメガ) }

二軸配向構造をもつ薄膜における、膜面に垂直な方向の配向性の指標。X線によるロッキングカープ測定(2Θ固定で試料を膜面に平行な軸周りに回転させる方法)で得られる回折ピークの半値全幅(FWHM; Full Width at Half Maximum)をこう呼ぶ。

{ Δφ(デルタファイ) }

二軸配向構造をもつ薄膜における、膜面に平行な方向の配向性の指標。X線を用いたΦスキャン測定(2Θ固定で試料を膜面に垂直な軸周りに回転させる方法)により得られる回折ピークの半値全幅(FWHM; Full Width at Half Maximum)をこう呼ぶ。ただし反射法において中間的方位(100配向した膜に対して110面や111面)で評価した場合にはΔωの成分が重畳されるため、注意を要する。

{ 電流リード   でんりゅうりーど  }

電流を導入する役割をもつ導体(金属等)線。

{ と }

{ ドープ状態  }

銅酸化物系高温超電導体の母物質は絶縁体であり、これにキャリアドープすることにより、超電導性が発現する。一般に、超電導転移温度(Tc)はキャリアドープ量に対して図に示すような釣り鐘型(bell shape)の依存性を示す。このとき、最高のTcが得られるキャリア濃度(∝酸素量)をオプティマムドープ(最適ドープ)状態とし、それよりキャリアが不足している状態を、アンダードープ(不足ドープ)状態、過剰な状態をオーバードープ(過剰ドープ)状態と呼んでいる。

{ トリフルオロアセテート(TFA:Trifluoroacetate) }

 トリフルオロ酢酸(CH3COOH)。酢酸と同様の構造で、炭素と直接結合している水素がフッ素に置き換わった化合物。溶液原料から超電導線材を作製する際に使用する。

{ な }

{ 内部拡散法   ないぶかくさんほう  }

Nb3Snの製造方法のひとつで、銅の中にNbとSnを配置したものを加工して線材にした後熱処理する方法。

{ に }

{ ニオブチタン }

⇒NbTi

{ 二軸配向構造   にじくはいこうこうぞう  }

多結晶薄膜において、膜を構成する結晶粒が膜面に垂直な方位にも、平行な方位にも配向している(結晶軸が特定の方向を向いている)構造。垂直方位のみ配向している構造は一軸配向構造(uniaxial structure)と呼ぶ。二軸配向構造においては、結果として結晶軸はすべて(三次元的に)同じ方向に揃っている場合が多いが、YBa2Cu3O7-δ(斜方晶)の場合は双晶構造が存在するため、通常、a軸とb軸は同じ方位に混在している。

{ ね }

{ 熱ノイズ (熱画像   ねつがぞう)  }

抵抗体内の電子の熱振動によって発生する電気ノイズ。その電圧VはV=kBTで表わされる。ここで、kBはボルツマン乗数、Tは絶対温度である。熱ノイズは温度が低いほど小さいため、極低温は熱ノイズが小さくデバイスの動作する動作環境として非常に優れている。

{ 熱ゆらぎ   ねつゆらぎ  }

デバイスパラメータの熱ノイズによる変動。SFQ回路で最も重要なパラメータであるジョセフソン接合の臨界電流値は、液体ヘリウム温度(4.2K)で約0.2µAの熱ゆらぎがある。SFQ回路における最小臨界電流値は熱ゆらぎと比べて十分大きな値が用いられており、通常熱ゆらぎの500倍の100µAに設定してある。

{ は }

{ バイクリスタル接合   ばいくりすたるせつごう  }

Y系高温超電導体を一層堆積するプロセスにおいて、膜中にジョセフソン接合を形成する手法で作製した粒界ジョセフソン接合の一種である。異なる方位の基板を接続したバイクリスタル基板上に超電導薄膜を堆積すると、そのエッジ部に粒界が形成され、ジョセフソン接合として機能する。もっとも作製方法が簡単な接合ではあるが、基板内の接合レイアウトに自由度がなく、バイクリスタル基板の入手も困難になりつつあることも拍車をかけ、平面型高温超電導接合の主流はステップエッジ接合に移行しつつある。  ⇒人工粒界

{ 配向銀テープ   はいこうぎんてーぷ }

銀を冷間圧延後、熱処理して再結晶させることにより、銀結晶粒の結晶方位を3次元的にそろえたテープ。

{ 配向性   はいこうせい  }

超電導層、中間層等の結晶軸の揃い方の程度を配向性という。基板面に垂直な方向(膜厚方向,c-軸方向)への配向と、線材の長手方向の結晶の並びである面内配向(a,b-軸方向)の2つが超電導特性、線材特性に重要な因子となる。

{ パバイロクロア構造   ぱばいろくろあこうぞう  }

立方晶系の結晶構造のひとつ。蛍石型構造に類型の構造で、蛍石型構造のカチオンサイト(Caサイト)に二種類のカチオンが入り、2倍周期の秩序構造をもったもの。同時にアニオンも2倍周期で規則的に欠損しているため、同じ立方晶系に属するが2倍の格子定数(8倍の単位胞)をもつ。一般式はA2B2X7。A, B = 金属元素、X = O, Fなど。非常に多くの物質がこの構造に属するが、主なものは、AおよびBのカチオン(金属イオン)の価数のタイプでIII-IV系とII-V系の二種類に分けられ、IBAD法で用いられるGd2Zr2O7はIII-IV系、超電導性を示すCd2Re2O7などはII-V系にあたる。

{ ハステロイ(Hastelloy) }

ニッケル合金の一種で、アメリカのHaynes Stellite Co.で製造している耐熱性ニッケル合金の商品名。組成は(54.5~66.5)Ni-(15~30)Mo-C-Fe(-Cr-W)系。高温において機械的強度が高く、しかも耐酸化性に富んでいる。

{ バッファ層 }

薄膜作製において、新たに堆積する層は下地材料表面の影響を少なからず受ける。そこで所望の層が得られ易くなるように極薄く性質の違った層を挟むことがある。これをバッファ層と呼ぶ。格子定数の整合性を改善したり、拡散障壁として働いたり、下地表面の化学的な性質を変える等、実際の機能としては様々な場合がある。MgO基板上に積層構造の高温超電導デバイスの作製にもバッファ層は欠かせない。 ⇒中間層

{ バランスドコンパレータ    ばらんすどこんぱれーた) }

直列に接続された二つのジョセフソン接合の間に信号入力端子が挿入されたSFQ回路の基本構造の一つ。クロック入力時に入力信号が一定値以上あれば、グランド側のジョセフソン接合(JJ1)がスイッチし出力側にSFQパルスが現れる。入力信号が小さい場合は、他方のジョセフソン接合(JJ2)がスイッチするため、出力側にSFQパルスは現れない。

{ バルク(Bulk) }

 ”かたまり”のことで、広義には、セラミックス等の焼結体も含まれるが(LRE123系) 、B2Cu3O7-δ系材料の場合は、通常、一旦溶解させてから結晶成長させた、溶融成長体(melt-processed bulk)のことを示す。通常、RE123超電導相と第2相との複合材料となっており、RE-Ba-Cu-O系バルク等と呼ばれる。

{ パルスレーザーアブレーション法  }

⇒PLD

{ パルスレーザ蒸着法  }

⇒PLD

{ 半溶融凝固現象   はんようゆうぎょうこげんしょう }

RE123相はその包晶温度以上に加熱すると211相と液相に分解する。この123相に比べ高温安定相である211固相粒子と液相が混じった状態を半溶融状態と呼び、そこから123相が凝固成長することを半溶融凝固という。

{ ひ }

{ ピーク効果   ぴーくこうか  }

臨界電流密度は通常、磁場の増加に従い単調に減少するはずであるのに対し、ある磁場でピークを持つという現象のことを示す。この効果は、各種超電導材料系に おいて確認されており、磁場依存性の異なるピン止め機構が働くために生じる。これまでに様々な機構が提案されているが、RE123系において代表的な機構としては、酸素欠損や元素置換などの格子欠陥によるものがある。 

{ ビードコーテング法  }

MOD法において有機金属塩溶液を基板上に連続塗布するための手法の一つであり、溶液溜からキャピラリー効果により溶液を供給して塗布する。

{ ビスマス系超電導体   びすますけいちょうでんどうたい  }

BiSrCaCuO    BSCCO参照

{ ビット誤り率(BER)   びっとあやまりりつ  }

高速デジタル信号を扱うシステムでは、様々な原因でビットエラー(正しい位置に所望のビット(デジタル信号)が立たないこと)が生じる。このビットエラーは デジタル信号の速度(ビットレート)が速くなるほど顕著となる。そのためそのシステムに必要とされる信頼性と扱うデジタル信号の速度から、そのシステムが 許されるビット誤り率がおおまかに推定できる。システム設計者は、このシステムのビット誤り率をこの許容値以下にしなければならない。

{ 標準化  ひょうじゅんか}

世界的な標準化組織として、機械関係でISO、電気関係でIECがある。超電導関係の標準化はIECの中のTC90が担当している。日本国内の超電導の標準規格はIECの規格とリンクして日本工業規格(JIS)として制定されている。

{ 表面粗さ  ひょうめんあらさ surface roughness }

物体の表面の凹凸の具合を表す指標のひとつ。複数の薄膜を積層させた多層構造をもつ超電導素子や超電導線材において、各薄膜層の表面粗さ(平滑性)は特性に大きく影響を与える重要な指標となる。いくつかの定義があるが、Ra値(JIS規格参照)やRMS値(二乗平均平方根;root-mean-square value)がよく用いられる。Ra値は基準線からの差の絶対値の平均をとったもの。RMS値は平均値からの差の二乗の平均値の平方根をとったもの。

{ ピン止め/ピン止め中心  }

外部磁界を全く侵入させない(マイスナー効果)超電導体は、第1種超電導体と呼ばれている。これに対して第2種超電導体では下部臨界磁場Hc1を 超えると一部量子化磁束が侵入した混合状態となる。この状態で外部から電流を流すと、量子化磁束はローレンツ力を受けて動こうとするが,超電導体内の格子 欠陥、析出相(絶縁相、常伝導相)、不純物、転位、粒界等の不均質な部分に外部磁束が捕捉され動きが妨げられる。これをピン止めという。ローレンツ力より ピン止め力のほうが大きければ、磁束は動かないが、電流または磁場が増加して、ピン止め力よりローレンツ力のほうが大きくなれば、磁束が動き電圧が発生す る(電気抵抗が生じる)。このローレンツ力とピン止め力が拮抗した限界の状態における単位面積当たりの電流値が臨界電流密度Jcとなる。

{ ふ }

{ フィッシング効果 }

超電導体の塊(バルク)に磁石を近づけてから、もちあげると、超電導体をつり上げることが出来る。そのとき、超電導体と磁石の間は(見えない釣り糸があるがごとく)特定の間隔を保った状態である。このフィッシング効果は超電導体のピン止め効果によって磁力線が固定されるために起きる現象である。

図-1

  フィッシング-1

図-2

  フィッシング-2

図-動画-3

    動画

{ 不可逆磁場   ふかぎゃくじば  }

外部磁場の増加とともに臨界電流密度は低下するが、臨界電流密度がゼロとなる磁場のことを不可逆磁場Hirrという。実用上は臨界磁場よりも不可逆磁場Hirrの方が重要である。

{ 物理気相蒸着法  physical vapor deposition (PVD) method  }

熱エネルギーや運動エネルギーなどの物理的プロセスを利用して原料を蒸発、気化させて基板に蒸着させる方法。パルスレーザ蒸着法、イオンビームスパッタ法など。 ⇔化学気相蒸着法

{ フライホイール  }

慣性の大きい物体を回転させ、回転エネルギーとして電力を貯蔵する装置。摩擦を小さくするために超電導材料のベアリングが用いられる。

{ フランホファー(Fraunhofer)パターン ふらんほふぁ  }

ジョセフソン接合において、接合面に平行に磁場を印加した時、ジョセフソン電流の最大値Jmaxは次のようになる。
Jmax=J0|sin(πΦ⁄Φ0)⁄(πΦ⁄Φ0)|
ここでΦ0は磁束量子、Φは接合を横切る磁束である。 この特性をグラフにすると下図のようになる。すなわち、ΦがΦ0の整数倍のときには、接合面を流れる全電流は正負がキャンセルしてゼロになり、半整数倍のとき極大になる。 この効果は磁気干渉パターンあるいは一つの狭い方形スリットを光が通る場合のFraunhofer回折の類似から、Fraunhoferパターンと呼ばれる。

{ ブロック層  }

高温超電導体は層状構造で、超電導を担うCuO2面と、キャリアを供給する働きをするブロック層から成る。この脇役のブロック層を厚さを小さくしたり、不純物を添加することにより超電導転移温度を変えたり、臨界磁界、臨界電流密度を変えたりすることができる。

{ ブロンズ法  }

金属間化合物超電導物質であるNb3SnはNbとSnの2相を直接接合して反応させても化合が難しい。当時金属材料技術研究所の太刀川恭二氏がNb,Sn以外に銅を含めた状態で反応させることによりNb3Snを合成する方法を提唱した。これにより、実用的なNb3Sn超電導線材の製造方法が初めて確立した。

{ ほ }

{ 捕捉磁場   ほそくじば  }

バルク超電導体は通常の磁石では得られない程の高い磁場を捕捉させることができる。磁場を捕捉させる方法としては、磁場中で冷却し超電導状態になったと ころで外部磁場を取り除く方法や静磁場やパルス磁場を使用温度(超電導状態になっている温度)で印加する方法などがある。また、捕捉磁場を向上させるため には、臨界電流密度Jcを高くし、バルクのサイズを大きくすることが有効である。また、低温にすると臨界電流密度Jcが 向上するため、捕捉磁場も大きくなる。ちなみに、世界最高レベルの磁場強度を示すNd-Fe-B系永久磁石の磁場強度は約0.5T、ピップエレキバンに用 いられている磁石は約0.13Tであり、バルク超電導体では、条件を選べば10Tを超える磁場を捕捉させることも可能である。

{ 蛍石型構造   ほたるいしがたこうぞう  }

立方晶系の結晶構造のひとつ。天然の蛍石(ほたるいし、CaF2)は、面心立方格子を組んだCa原子とその1/2周期の単純立方格子を組んだF原子から成る構造(蛍石型構造)をとる。高温超電導体のCuO2面(ペロブスカイト型構造)の間に、このホタル石型構造がブロック層として取り込まれることがしばしばある。またRE123系超電導線材の中間層として用いられるCeO2、YSZなどがこの構造をとる。

{ ホモ・エピタキシャル成長  }

基板と薄膜に同じ物質を用い、基板の結晶面にそろえて薄膜を成長させる薄膜結晶成長方法。

{ ホモロガスシリーズ  }

酸化物超電導体中で、2次元CuO2面の枚数が異なるのみで、他は同一の構造を有する超電導体系列。

{ 本焼   ほんしょう  }

一般に、目的とする最終物質(あるいは形態)を得るための熱処理工程を指す。焼結体の作製における(粒成長や酸素制御などを伴った)焼結工程、あるいはイットリウム系線材プロセスに用いられるMOD法における、前駆体からの超電導相形成を目的とした熱処理工程など。⇔仮焼

{ ま }

{ マイスナー効果  }

磁場中に超電導状態にある超電導体を置いたとき、磁場が完全に超電導体から排除される効果。超電導のもっとも基本的な性質で、超電導体の表面に超電導電流が流れ,それが作る磁場が内部でちょうど外部磁場を打ち消すためにこの現象が生じる。

{ マトリックス  }

物質内部に析出相などの第二相(異相)が存在する場合、それに対して物質の残りの大部分を占める最も主となる相を指して用いる表現。母相。基質。例えばRE123系の酸化物超電導材料は、半溶融状態から冷却、凝固するときに非超電導相で高温安定相であるRE211相粒子をRE123相内に取り込みながら成長する。このときRE123相はマトリックス母相、非超電導相は第二相と区別される。

{ む }

{ 無双晶化   むそうしょうか untwin、detwin }

双晶構造を無くすこと。物性の評価などには可能な限り完全結晶に近いことが望ましいため、このような処理が行われる。YBCOでは、一方向に圧力をかけたまま温度、酸素雰囲気を制御することによって無双晶化が行われる。

{ め }

{ メカニカルモデル  }

超電導回路設計で使うメカニカルモデル(機械モデル)とは、ジョセフソン接合の動作を振り子の動作で表すモデルのことである。ジョセフソン接合の位相、ジョ セフソン電流値がそれぞれ振り子の回転角、おもりの質量に対応して、同じ運動方程式にしたがうため、この振り子の動きを見るとジョセフソン接合の位相の動きを理解することができる非常に有用なモデルである。

{ も }

{ モート  }

磁束トラップをによる超電導回路誤動作を防止するために、超電導グランドプレーンの一部に設けた穴。回路の主要部分から離れたモートに磁束を優先的にトラップすることにより、回路主要部分近傍のトラップを防止する。

{ ゆ }

{ 有機金属化合物/有機酸塩   ゆうききんぞくかごうぶつ/ゆうきさんえん}

アルキル基のような炭化水素基や一酸化炭素などが直接の金属?炭素結合によって、金属原子と結合した化合物をいう。 有機酸と金属イオンが結合してできた塩(化合物)。 化学反応プロセスの一つで、分子レベルで有機化合物との複合体として、目的の化合物と類似の組成を有する前駆体構造を合成し、その熱分解過程を利用する無機材料の合成法をいう。  厳密には、有機金属化合物とは金属-炭素結合により炭化水素基などが直接金属と結合した化合物をいう。metal-organic (organo-metallic) compound。MO(OM)化合物。有機金属化合物を基板に塗布し、熱処理により金属あるいは金属化合物などの無機材料(薄膜)を合成する方法をMOD(Metal-Organic Deposition/Decomposition)法という。 ただし、有機金属化合物あるいはMO化合物という表現は、直接の金属-炭素結合の存在に依らない有機酸塩や有機金属錯体などを含めた、金属を含む有機化合物の総称として用いられる場合が多い。

{ 有機金属熱分解法   ゆうききんぞくぶんかいほう  }

⇒MOD法

{ ら }

{ ラッチ回路   らっちかいろ  }

超電導回路の回路方式の一つ。ジョセフソン接合を流れる電流がその臨界電流を超えた後、ジョセフソン接合を電圧状態に固定(ラッチ)し、出力抵抗に電流を分流させることにより論理”1”状態を作りだす。

{ ラマン散乱分光   らまんさんらんぶんこう  }

物質に光を通すと、入射光と等しい周波数をもった強い弾性散乱と、入射光の周波数からわずかにずれた、きわめて弱い非弾性散乱光が散乱されてくる。この非弾性散乱光のうち、物質中を振動する原子やイオンによって散乱されるものをラマン光と呼ぶ。結晶によるラマン散乱は、光学フォノン、マグノンなどの素励起と入射光との相互作用によって生じるので、格子振動、スピン波などの情報が得られる。

{ ランプエッジ接合   らんぷえっじせつごう  }

下部の超電導薄膜のエッジ部に10-30 度程度の傾斜ができるように加工し、その傾斜面をバリア層で覆い、さらにその上に上部超電導薄膜を堆積した構造をもつ接合。高温酸化物超電導体の場合、ト ンネル電流が基板に平行方向(超電導コヒ-レンス長の長いa-b面方向)に流れるため、優れた特性が得やすい。しかし高度な多層積層技術やバリア形成技術が必要で、近年ではISTEC/SRL以外では作製されていない。ISTEC/SRLのSQUIDは、世界で唯一、ランプエッジ接合を用いて形成されている。

{ り }

{ リールトゥリール方式(Reel to Reel) }

線材プロセスに用いられる長尺試料作製法。一方のリールからテープ状の基材を巻き出しながら、他方のリールで巻き取ることによって、基板を移動させつつ、その基材上に薄膜を連続的に形成させていく方式のこと。

{ 量子化磁束   りょうしかじそく  }

混合状態で磁束量子Φ0の単位に量子化された磁束のこと。超電導電流が量子化磁束の中心の周りを渦状に流れることから、量子化磁束を渦糸(vortex)、混合状態を渦糸状態(vortex-state)ともいう。

{ 臨界温度(Tc)  りんかいおんど  }

温度上昇に伴い超電導状態(電気抵抗ゼロ)から常電導状態(電気抵抗を生じる)へと相転移する温度のこと。

{ 臨界磁場(Hc)   りんかいじば  }

第一種超電導体では超電導状態から常電導状態へ転移を起こすときの磁場のことを示す。また、第二種超電導体ではマイスナー状態から混合状態への転移を起こすときの下部臨界磁場(Hc1)、混合状態から常電導状態へ転移を起こすときの上部臨界磁場(Hc2)の総称のことを示す。

{ 臨界電流(Ic)   りんかいでんりゅう  }

超電導体において、抵抗ゼロで流せる最大の電流値。抵抗ゼロを特定するのは困難なので、実際には電流/電圧特性の測定を行い、電圧や抵抗を規 定して決定する。 高温超電導線の場合、電圧の発生が1μV/cmとなる電流値をもって臨界電流とする場合が多い。商業製品であるNbTi超電導線では断面積あたり、 1×10-12Ωcmの抵抗が発生する電流値、Nb3Sn超電導線では電圧の発生が 0.1μV/cmとなる電流値をもって臨界電流とする場合が多い。

{ 臨界電流密度(Jc)   りんかいでんりゅうみつど }

単位断面積当たりの超電導体に抵抗ゼロで流すことのできる最大の電流値のこと。臨界温度、臨界磁場と並んで超電導の基本特性を示す3要素の一つで、実用上重要な値。通常Jcと略す。超電導体のJcが高ければ、バルク超電導体に捕捉できる磁場強度が向上する。また、線材では、同じ断面積で大電流が流せるし、同じ電流値を流すのであれば、線材の断面積、すなわち、線材の量が少なくてすむ。同じ磁場発生なら、高いJcをもつ超電導線で作ったコイルはコンパクトにできる。)

{ ろ }

{ ローレンツ力  }

電磁場中で運動する荷電粒子が受ける力のこと。荷電粒子が速度vで動いているときに、磁場(磁束密度B)からはたらく力は粒子の進行方向と直角な方向にはたらき、その大きさはBxvとなる。混合状態にある第二種超電導体に電流を流したとき、超導体内に侵入した量子化磁束線がこのローレンツ力により駆動力を得て運動(磁束フロー)するため散逸が生じ(つまり電気抵抗が発生)、結果として、超電導が破れる。

{ A }

{ A15型超電導体  }

Nb3SnやNb3AlなどのA15型と呼ばれる結晶構造の超電導物質。単位格子が立方体で、Nbが中心と各頂点に、SnやAlが結晶格子の面内に2個ずつ配置されている。NbTiよりは臨界温度や臨界磁場が高いが、金属間化合物であるので、比較的もろく、加工後に熱処理して超電導体をつくる。

{ B }

{ BaF2プロセス  }

RE123系超電導線材製造法の一つで、BaF2を含む前駆体膜に用いて、後熱処理により超電導相を合成するプロセスの総称をいう。前駆体膜の作製方法としては、電子ビーム蒸着やTFA-MOD法が用いられる。

{ BCS理論  }

超電導の発現機構についての微視的な理論で、バーディーン(Bardeen)、クーパー(Cooper)、シュリーファー(Schrieffer)の3人によって1957年に提唱された("Theory of superconductivity," Phys. Rev. 108 (1957) 1175.)。3人の頭文字をとってBCS理論とよばれる。 BCS理論では、2個の電子ペア、クーパー対)をつくってボゾンとなり(クーパー対の電子のスピンは互いに逆向きのため、スピンが打ち消し合っており、またペアの全運動量はゼロとなっている。)、これらがボーズ凝縮して超電導の基底状態を形成すると考えている。 また、BCS理論から予想される超電導転移温度の上限は、およそ30 - 40 K(ケルビン)とされ(BCSの壁)、銅酸化物系超電導体が発見された時、このBCSの壁を破ったことで多くの研究者に衝撃を与えた。

{ Bi2212 (Bi2Sr2CaCu2Oy)  びすます・にいにいいちに  }

Bi2Sr2CaCu2Oy という化学式で表される高温超電導物質。同じBiSrCaCuOの一種であるが、臨界温度は低い。Bi2223に比べて極低温での性能が良い、テープ状ではなく、丸線に加工できることから期待されているが、線材よりバルク体として電流リードや限流器に使われることもある。

{ Bi2223 (Bi2Sr2Ca2Cu3Oy)  びすます・にいにいにいさん }

Bi2Sr2Ca2Cu3Oyという組成の高温超電導物質。臨界温度は-163℃(110K)である。へき開しやすいため、圧延により結晶方位を揃えることが比較的たやすく、銀パイプの中に粉末を充てんして銅線と同様な伸線加工を行うことによりテープ状の長尺線材をつくることが可能。高温超電導線材としては最初に商品化されて応用製品の開発に使用され、現在では応用製品の商品化も進んでいる。実用化されたBi2223超電導線は銀もしくは銀合金の中に Bi2223超電導体のフィラメント(芯線)が多数埋め込まれたテープ状である。強度を向上させるために金属(銅合金やステンレススチール等)と複合化された形状で販売されることも多い。また、交流用途では一般の線材より断面積が小さく、フィラメントがツイストされた超電導線も販売されている。さらに、大電流の電流リード用として、低温での熱伝導度が小さい銀-金合金にフィラメントが埋め込まれた超電導線も販売されている。
[上図はBi2223超電導線断面の一例]

{ BSCCO  びすこ  }

化学式Bi2Sr2Can-1CunOyであらわすことができる物質で、主としてBi2212(Bi2Sr2CaCu2Oy) とBi2223(Bi2Sr2Ca2Cu3O) の2種類の組成の超電導物質が存在する。1988年1月に金属材料技術研究所の前田弘氏が発明した。

{ C }

{ CeO2  }

酸化セリウム。蛍石型構造をとる希土類酸化物の一種。イットリウム系超電導線材において、反応性、格子整合性などからしばしば超電導層直下のキャップ層として用いられる。積層型高温超電導集積回路やSQUIDでは、多層の超電導配線を絶縁するための層間絶縁層として用いられている。  ⇒バッファ層   ⇒中間層

{ CuO2面  }

銅酸化物系の高温超電導体において超電導を担う面。超電導電流などを担う超電導電子はこの面内に閉じこめられた状況にあり、面同士は絶縁層(ブロック層)で隔てられているため超電導としては(ジョセフソン結合的に)ごく弱くしか結合しておらず、結果的に銅酸化物超電導体は強い異方性(二次元性)を示す。

{ CVD法  }

chemical vapor depositionの略。⇒化学気相蒸着法

{ E }

{ ex-situ法  }

①超電導線材の製造法の一つであるパウダー・イン・チューブ(PIT)法において、予め超電導体粉末を合成し、それを金属管に詰めて伸線・圧延加工を施し、非加熱で線材化する方法。(⇔in-situ法)
 ②イットリウム系テープ線材の製造法において、2段以上の工程からなる超電導薄膜の製造方法をex-situ法とも呼ぶ。この場合は、初期工程で物理蒸着法(真空蒸着、スパッタ)等によって比較的低温で高速に前駆体膜をつくり、その後の工程の熱処理により、前駆体膜を結晶化して超電導相を合成する。BaF2プロセスもex-situ法の一つである。 ⇔in-situ法

{ F }

{ FCL(SFCL) }

(Superconducting) Fault Current Limitter(超電導限流器)落雷による短絡事故等で電力系統に過大な事故電流が流れた場合は、遮断器で回路を切って事故電流を遮断するのが普通であるが、限流器は回路を切り離すことなく過大電流を一定の電流に抑制(限流)するものである。
超電導限流器は、超電導状態では抵抗がゼロであるが、超電導状態が破れると抵抗が大きくなり、限流効果が発生する性質を利用した機器である。

{ FW }

⇒フライホイール   ⇒FZ法   ⇒ゾーンメルト法

{ H }

Hc

臨界磁場参照 

{ I }

{ IBAD法 }

Ion Beam Assisted Depositionの略。⇒イオンビームアシスト蒸着法。

Ic  }

⇒臨界電流(Critical Current)

{ in-situ法  }

超電導線材の製造法の一つであるパウダー・イン・チューブ(PIT)法において、原料粉末を金属管に詰めて伸線・圧延加工を施して線材化した後、熱処理を施して原料粉末を反応させ超電導相を合成する方法。⇔ex-situ法

{ Inclined Substrate Deposition (ISD法)  }

レーザー蒸着法あるいは電子ビーム蒸着法において、ターゲットに対して基板をある角度を持たせて対向させ成膜することにより、他に特別な操作することなく成膜した材料の結晶方位を3次元的にそろえる(二軸配向させる)方法。

{ ITER いーたー }

International Thermonuclear Experimental Reactor(国際熱核融合実験炉) 当初日米欧ソの4極で共同でトカマク方式の核融合実験炉を建設するという計画であったが、現在では2018年頃の運転開始を目指して韓国、中国、インドを含む7極で実施中。実験炉の設置場所はフランスのカダラッシュ。主としてNb3SnによるトロイダルコイルとNbTiによるポロイダルコイルが及び高温超電導線材の電流リードが採用されている。(http://www..jaea.go.jp/ITER/iter/index.html)

{ J }

Jc  }

⇒臨界電流密度(Critical Current Density)

  }

Jは電流密度、eはEngineeringを示す。 Engineering Critical Current Density 工学的臨界電流密度。通常臨界電流密度は超電導体の断面積に超電導状態で流すことのできる電流密度であるが、超電導線材の実際の使用条件においては、銅や銀、保護層といった超電導体ではない部分が含まれるため、工学的には線材断面積全体で電流密度を議論する場合がある。

{ L }

{ LHC  }

Large Hadron Collider(大型ハドロン衝突加速器) スイスのジュネーブにあるCERN(Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire 欧州原子力研究機構)にある周長27kmの円形加速器。Nbの加速空洞と偏向用NbTi超電導マグネットが主リングを構成する。陽子を7TeVまで加速し衝突させることにより素粒子の研究を行う。ダン・ブラウンの「天使と悪魔」(小説、映画)では、反物質をつくったとされている。(http://www.lhc-closer.es/php/index.php?i=1&s=1&p=1&e=0)

{ LPE(液相エピタキシ)法  }

結晶成長の方法として、溶液から固相結晶を基板の配向性を維持させながら晶出させる方法である。気相成長などに比べ成長速度が速く、また熱平衡に近い条件で結晶成長させるため厚膜化しても結晶性の低下が小さいなどの特徴を持つ。

{ M }

{ MgB2

銅酸化物高温超電導体や超電導以外で、金属系超電導の中で最高の超電導転移温度(-234℃、39K)をもつ化合物。青山学院大学秋光グループによって超電導が発見された。

{ MgO }

酸化マグネシウム。薄膜作製用の単結晶基板として用いられる。123相の溶液成長時に用いられるBa-Cu-O融液との反応性が小さい数少ない材料である。また最近では、線材プロセスにおいてIBAD法による二軸配向層の成膜に用いられ、高速プロセスに繋がる物質として注目される。NaCl(岩塩)型構造。

{ MOD法(Metal Organic Deposition) }

有機金属化合物を原料として、アモルファス状の活性な前駆体を基板表面に形成し、これを熱処理し結晶化することにより超電導相を得るための手法。超電導体作製において用いられる有機金属化合物としては、オクチル酸塩、TFA金属塩などがある。

{ MRI }

Magentic Resonance Imaging(磁気共鳴撮影装置) 核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)を利用して生体内部の情報を得る画像装置。主として体の断層写真を撮影できる医療装置。超電導磁石により強い磁場をかけて高精細な画像を得る。超電導材料が使われた最初の商業機器。(http://www.toshiba-medical.co.jp/tmd/products/mri/titan/index.html)


{ MO }

⇒磁気光学効果

{ N }

{ Nb3Al  におぶさんあるみ  }

NbとAlの比率が3:1である金属間化合物超電導物質。臨界温度17.5K、4.2Kでの臨界磁場25T。Nb3Snより機械的ひずみに強い。Nb3Al超電導線は、銅等の中にNb3Al超電導体のフィラメントが多数埋め込まれツイストされた形状である。コイル等の最終形状にしてから熱処理をしてNb3Alを生成させる場合が多い。

{ Nb3Sn  におぶさんすず }

NbとSnの比率が3:1である金属間化合物超電導物質。臨界温度18K、4.2Kでの臨界磁場20T。Tiの添加により臨界磁場が25T程度まで向上する。おおよそ9T以上の高磁場の発生に使われている。Nb3Sn超電導線は、銅等の中にNb3Sn超電導体のフィラメントが多数埋め込まれツイストされた形状である。コイル等の最終形状にしてから熱処理をしてNb3Snを生成させる場合が多い。

{ NbTi  におぶちたん }

ニオブとチタンの合金。重量比で約50%の合金は金属系超電導物質として臨界温度9.3K、臨界磁場@4.2K、11.4Tを持ち、現在の超電導線材の主流。NbTi超電導線は、銅/銅合金の中にNbTi超電導体のフィラメントが多数埋め込まれツイストされた形状である。
[ニオブチタン超電導線断面の例]

{ Ni基テープ }

Ni(ニッケル)を主要な構成元素として含む金属基板。IBAD成膜用基板としてはハステロイやインコネル、配向金属基板としてはNi-WなどのNi基合金が用いられる。

{ O }

{ OCMG法(酸素制御溶融法) }

Oxygen Controlled Melt Growthの略で、RE123系バルク超電導体の結晶成長法の一種。溶融成長(Melt Growth)法とは、一旦、超電導体の分解温度以上に加熱して溶融させてから冷却し結晶成長を行うもので、結晶粒を大きくすることができる。通常、種結晶を用いて一つの結晶粒のみを大きく成長させる手法が併用される。また、結晶化の際、第2相であるRE211常電導相がRE123系バルク超電導相内に析出される。この析出相がピン止め点として作用し、高臨界電流密度および高臨界磁場を達成し、その結果として高い磁場発生を得ることができる。LRE123(LRE:軽希土類元素)系の場合、LREとBaの置換による超電導転移温度の低下が生じやすいが、結晶成長中に酸素分圧制御(Oxygen Controlled)することでこの置換を抑制し高特性の超電導体を作製することができる。

{ P }

{ PLD(Pulsed Laser Deposition)法  }

パルスレーザー堆積法。あらかじめ雰囲気調整された成膜室内に置かれたターゲット上に、レーザパルス光を集光し、レーザー光のエネルギーによって励起されて飛び出すターゲット物質をターゲットに対向する位置に置かれた基板上に堆積させて薄膜を形成する。

{ PPLP }

Polypropylene Laminated Paper 日本の電線メーカーの商標名。ポリプロピレンをクラフト紙ではさんだ合成紙。油絶縁ケーブルに使われているが、液体窒素を含むことで絶縁体としての性能が向上するため、超電導電力ケーブルの絶縁に使われる。



{ PVD法 }

⇒物理気相蒸着(Physical Vapor Deposition)法

{ R }

{ RE123系超電導体  }

希土類元素(RE)、バリウム(Ba)、銅(Cu)が1:2:3の元素比で構成された酸化物材料で、化学式REBa2Cu3O7-δの略式表記。RE(希土類元素)をイオン半径の大きいネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)等とした系は臨界温度Tcや高磁場での臨界電流密度Jcがイットリウム(Y)とした系に比べ優れており、液体窒素温度(77 K)での高磁場応用にとって重要な材料である。  ⇒ガドリニウム

 

{ S }

{ SFQ回路 }

超電導ループ中のSFQの有無を情報の”1”、”0”に対応させ、様々な演算を行う回路。SFQをループに出入りさせるには、超電導ループにジョセフソン接合を挿入し、その電圧状態へのスイッチでジョセフソン接合部分の超電導性を一時的に破ることにより行う。SFQ回路は半導体の限界を超える超高速性と低消費電力性が両立できることが特長であり、スーパーコンピュータ、ネットワークルータを始めとして様々なデジタル回路への適用が期待されている。

{ SFQサンプラー回路 }

幅数ピコ秒以下のSFQパルスを用いて、繰り返し現れる電気波形を高い時間分解能で測定する回路。最低5個のジョセフソン接合で構成できるため、作製の難しい高温超電導回路でも実現が可能である。NECが開発を手がけ、その後、超電導工学研究所が作製したSFQサンプラーは、SQUID以外で唯一の実用的な高温超電導集積回路である。

{ SMES   すめす}

Superconducting Magnetic Energy Storage(超電導電力貯蔵装置) 超電導線材は抵抗ゼロであるので、リング状にして電気を流すと減少することなく電気を保持することができる。この原理を利用して超電導コイルを電力貯蔵のための装置としたもの。貯蔵効率が高く、極めて短時間で電力の充放電が可能、繰返し動作に強いという特徴を持つ。

{ SOE (Surface Oxidization Epitaxy)法 }

Ni 基材の自己酸化膜NiOを中間層として積極的に用いる中間層形成の一手法。従来、NiOは配向中間層形成に害があるとされ、水素還元などの方法を用いて除 去し、他の安定化ジルコニア(YSZ)やマグネシア(MgO)の中間層を形成していた。SOE法は逆転の発想でNiO自体を配向化し中間層 (NiO(100)配向膜)として利用した。

{ SQUID (superconducting quantum interference device) すくぃっど }

ジョセフソン効果を用いて極微少な磁束を測定するための素子。超電導体で作られたリング中に1個以上のジョセフソン素子を含んだ高感度の磁束計。SQUID は超電導量子干渉素子と呼ばれ、超電導ループにジョセフソン接合を含む構造をもち、高感度な磁気センサーとして使われる。生体が活動するとき発生する微弱 な磁場を検出する脳磁計、心磁計などの生体磁気計測、微弱な電圧、電流などの高精度な物理計測などで応用されている。

{ T }

{ T テスラ  }

磁束密度のSI単位。1T=104G(G:ガウス)。

Tc  }

⇒臨界温度

{ TC90 }

国際電気標準会議(IEC)内に設置された超電導関連の標準化専門委員会(Technical Committee 90、TC90)である。これはIECの中で日本が初めて幹事国をつとめたTCである。

{ TFA(トリフルオロ酢酸)前駆体/TFA-MOD法 }

TFA=トリフルオロ酢酸(trifluoroacetate)のこと。原料としてTFA化合物(錯体)を用いたMOD法をとくに指してTFA-MOD法と呼ぶ。Y、Ba、CuそれぞれのTFA溶液を塗布・仮焼し、酸化物およびフッ化物から成る前駆体を形成させた後、H2O雰囲気中で高温熱処理すること(本焼)によりYBCO膜を形成させる。

{ V }

{ Vortex }

⇒量子化磁束

{ Y }

{ Y系 }

{ YBCO }

YBa2Cu3Oy

{ YSZ(イットリア安定化ジルコニア) yttria-stabilized zirconia }

イットリア(Y2O3)を数mol%固溶させることによって、高温にあるジルコニア(ZrO2)の立方晶領域を、低温領域まで安定化させた物質。同様にジルコニアの立方晶領域を安定化させる物質としてマグネシア(MgO)やカルシア(CaO)なども用いられる。RE123系超電導線材プロセスにおいて重要な物質で、種々の中間層として用いられ、IBAD法による二軸配向中間層の作製に初めて成功した物質でもある。単結晶基板としてもよく用いられる。蛍石型構造。